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今はそんなふうな話は聞きませんけれども、どんなにいい企画を考えても、理想的なキャストというのは、思い浮かんでも、つかまえることが至難のわざです。例えば、ジャニーズ事務所のだれだれが人気があるから、その若者を中心にしてミュージカルを企画しようと思っても、ジャニーズ事務所がうんと言わないというのもざらでございますので、非常に効率の悪い仕事が演劇プロデューサーかなというふうに思いますね。
さっきの「レディ・イン・ザ・ダーク」の例は非常に成功したんですけれども、私がドラマシティで初めて制作したミュージカルは「ファニー」という、これはマルセル・パニョルという人の「マリウス」「ファニー」「セザール」という3部作をアメリカでミュージカル化したもので、なかなかいいものなんです。ドラマシティだけで単独公演をして三十何ステージかやりましたけれども、主演のファニーは島田歌穂で、財津一郎さんと宝田さんがおじさん2人で出ているんですね。公演としては非常に好評をいただいたんですけれども、大阪で三十何回、2万何千人という観客を呼ぶ力がやっぱりこのキャストになかったのか、私どものセールスが下手だったのか、60%ぐらいの入りに終わりました。
仕込みは80何%かかりまして、ぜいたくというのか、道具もきちっとつくって、ドラマシティが開場して間もなしで全国的に全く知名度のなかった時代ですから、少しは宣伝効果を出すべしということで、東京の「月刊ミュージカル」なんかに非常に評価は受けましたけれども、やっていて非常に不燃焼というのか、後味が悪いというのか、やっぱりもうかりませんから、少なくともとんとん、収支ゼロの成績、売り上げをおさめてくれたらよかったんですけれども、やっぱり20%ダウンですから大赤字になりました。先ほども申し上げたように、「ファニー」というミュージカルは、日本で初演されたにもかかわらず、そういうことを想定して見に来てくださった熱心なファンが何人いらしたかということは非常に気になりました。それは東京でも、例えば「シカゴ」というおもしろいミュージカルを初めてシアターアプルで上演したときも、これは上月晃さんと草笛光子さんという2人が、もう既に人気がなく、チケットが売れるような女優さんではなかったかもわかりませんけれども、非常に実力のあるうまい人には違いないので、この人たちがやられたミュージカル、しかも「シカゴ」のようなおもしろいミュージカルが初めて日の目を見たにもかかわらず、もっと客が来てもよかったなというようなことがありました。
そういうもどかしさ、実際にチケットを売るのはプロデューサーではありませんけれども、プロデューサーが選んだキャスティングが不発に終わったときのもどかしさというのは、胃が痛いようなものがありますので、プロデューサーというのは余り精神衛生上健康

 

 

 

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